私たち乗務員は、営業所内に置いてある運行表に基づいて動きます。
もちろん路線バスと、観光バスは別になっています。
観光バスの方は、スケジュール表という感じですかね。
それを見て一泊だとか、日帰りだとか
はたまた社員旅行とか、幼稚園の遠足とかわかるわけです。
コースも事前に知っておくことで、どんな案内が必要か準備ができます。
運行表
観光バスは主に
- 日付・泊数・出勤時間
- バスの型（新旧モデルの違いのようなもの）
- 運転手名・ガイド名
- 行き先・団体名・台数
などが書き込まれています。
そこで初めて自分の次の仕事内容がわかります。
例えば
「9/30 一泊 5：00 HD 東山 武井 伊東温泉 ○○会社 ３台口」
こんな感じですね。
各コースは、助役さんに聞くと詳しく教えてもらえます。
どこに配車するのかも、これで分かります。
そして了解したら、ハンコを押します。
ちなみにHDというのは、バスのタイプでハイデッカーというタイプ。
一般的な型です。
もうちょっとグレードが上がると、スーパーハイデッカーというのもありました。
（80年代～90年代です。）
ある日の仕事
その日も一泊の仕事から戻ってきて、営業所で今回の仕事の報告と
次の仕事の確認をしました。
次も一泊で今度は伊豆の北川温泉という所です。
大きい温泉地ではありませんが、評判の良い温泉地です。
団体名は「○○商事」１台口
社員旅行だなと思いました。
はつたいけん
翌日、配車場所に行くとちょっと強面の方々が待っていました。
予定時間よりちょっと早めにもかかわらず、お客様はほぼ揃っているように見えました。
「おはようございます。お待たせいたしました。」
と、挨拶をしましたが、それに対しては反応が薄く
「荷物積ませてもらうよ。」
というと、ビールや日本酒・ウイスキーおつまみの入った段ボールが次々と運び込まれました。
飲み物を冷やしたいというので、備え付けの冷蔵庫に入れたりしていました。
でも、動きに無駄がなく、旅行に行くというのにピリッとした空気がありました。
そこに羽織はかまのおじいちゃんが、バスに乗ってきました。
ニコニコしていて好々爺という感じの、おじいちゃんです。
「今日はよろしく頼むね。」
なんて声もかけてくださって、福の神のような雰囲気の方でした。
不思議な現象
全員揃ったので、出発しました。
すると幹事さんと思われる方が「あとはオレたちでやるから」
とおっしゃって、ガイドさんは何もしなくて良いというのです。
わかりました・・・と言ったものの、額面通り受け取って良いのか困りました。
しかし、お客様の意向ですから仕方ありません。
コースの案内も、カラオケのセットも全て幹事さんと、お手伝いの方がやってました。
私は聞かれたことに答えるだけでした。
でも心配をよそにカラオケなどで盛り上がり、順調に何事もなく進んでいました。
時々、ちょっと不思議な現象が起こるのを省いては・・・。
それは突然起こります。
それまでカラオケで歌ったり、楽しそうに話しているのですが
ピタッと全ての音が無くなるんです。
ちょっとの間の後に、すぐに元のようにカラオケが再開されます。
まるで何もなかったように。
この突然静かになるときに、ときどき案内のリクエストが入るときもありました。
「ガイドさん、どの辺まで来たか案内して。」
「あの山は何ていうの？」
「泊まる温泉の説明して。」
こんな感じにリクエストがきます。
案内をしている間は、誰もおしゃべりをすることなくこちらを見て真剣に聞いています。
酔って歌っていた人たちとは思えない。
なんなの？これ。
そういうことね
ホテルに無事到着。
翌日は８時出発ということで確認しました。
そして次の日、８時の出発なので７時半にはバスに行きます。
その時、ホテルの玄関前に黒い高級車が横付けになっているのを見ました。
「こんなに早く・・誰？」
と、漠然と思っていました。
やがて私たちのバスも出発の時刻です。
幹事さんが「出発して」とおっしゃいましたが、昨日のおじいちゃんがまだ乗車されてません。
そのことを伝えると「会長は車で帰ったから乗らない」とのこと。
朝の高級車は、おじいちゃんの車だったのね。
しかも・・・会長だったのね。
帰りのバスは、会長がいないのでさぞや賑やかと思いきや
みなさん超爆睡していました。
きっとバスの中だけじゃなく、ホテルでも緊張していたんだろうなと想像しました。
後で運転手さんに聞いたのですが、車内が静かになるときは会長が持ってる杖を立てるんだとか。
それが合図になって、静かになりご用は何かお伺いしていたようです。
「良くわかりましたね。」というと
「サービスエリアのトイレで、話していたのが聞こえたんだよ。合図はこれだから、お前もちゃんと見てろって仲間に言ってたんだよ。」
あんなに穏やかそうなおじいちゃんなのに、厳しいのね。
高級車でお迎えなんて、そんな身分なのに
バス旅行されるんですね・・・というか、見てみたかっただけなのかもしれませんね。
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